共生と分有のトポス

両手を高く上げる?

「恍惚とする者と溺れる者—どちらも両手を高く上げる。
前者は自然の地水火風との一致合体を、後者はそれとの抗争を証言する。」

フランツ・カフカ

*フランツ・カフカ「夢・アフォリズム・詩」吉田仙太郎編訳 平凡社 より

本事業では排除でも包摂でもない「潜在的なコモンズ」をテーマに設定しています。受講生の皆さんとは、分断された個人・ケア・働くこと・公共圏の境界など、複数の問いについて芸術固有の接近方法で共に考える場所を探ってゆきたいと考えています。そのため下記の3つのプログラムを準備しています。

【I】 共生と分有のトポス〜「公共空間」における潜在的なコモンズの社会化
【II】 想起と記憶のあいだのケアのカタチ〜「ケア」を起点に社会を捉えアートが有する技術や領域の分有
【III】 芸術の生態系と社会のインフラ構築〜芸術文化を支える人材の社会的なインフラのオルタナティブな「環境」

講師には芸術・人類学・地理学・医学・社会学・福祉など複数の領域から専門家をお招きし、個別のテーマを検討してゆきます。 各プログラムは個別に進められますが、完全に独立した活動ではなく、知識や経験を分有しながら共生する構成となっています。 またプログラムは ①レクチャー×リサーチ、②セミナー×創造実践、③記録×発信という3つのフェーズを総合した形を持ち、 作品展示・鑑賞という従来のアートの学びのフォーマットを多元化する試みともなっています。

プログラムディレクター 髙橋悟(美術家/京都市立芸術大学美術学部教授)

活動概要

プログラム 1

共生と分有のトポス

本プログラムでは公共空間において他者との身体的な接触や経験の共有が困難な状況において、 分有をキーワードに排除でも包摂でもない新たな関係のありかたとしての潜在的なコモンズの可能性を探ってゆきます。 「分有(partage)」は美学や政治哲学の概念ですが、ここでは以下の3つを軸にカリキュラムを構成します。

①社会が規定する原則の枠外におかれ「見過ごされてしまう細部のつながり」
②教える/ 教えられる、看る/看られる、雇う/雇われるなど「分割された関係性を固着させない場のかたち」
③芸術大学のリソースを多様な領域へ連環させる「技術的なものの分有」

美術専門領域に加えて環境福祉学、文化地理学、情報メディア論などの多様な研究領域との協同による講義、 アーティストとの創造実践、多元的な記録・発信のワークショップなどを通じて潜在的なコモンズを社会化する手法のプロトタイプを構想してゆきます。

プログラム 2

想起と記憶のあいだのケアのカタチ

美術館でのキュレーションのギリシア語源(CURARE)は「気遣うこと」を意味します。 アートとケアという概念はその本質的な部分で共鳴しあっているのです。 本プログラムでは、このケアの中でも特に記憶想起の障害とケアについてのリサーチからスタートします。 講座では、この「想起と記憶のあいだ」のケアを軸にして個・集団・風景・環境・歴史を捉えなおすアートに関する公開講座や、 風景をめぐりながら記憶の想起へと接続するツアー型の創造実践を進めてゆきます。 アートとケアの出会いは対立や分断による二極化とは異なる可塑的な共生社会を構想することに繋がるでしょう。

プログラム 3

芸術の生態系と社会のインフラ構築

専門性の高いアート・ワールドの仕組みは、外部にいるものからは容易に把握することができません。 またそこでの労働環境や雇用は安定したものではなく、持続的に芸術文化を支える人材を育成する社会的なインフラの構築が望まれています。 本プログラムは、人類学的な視点から改めて「はたらく」ということの意味を捉え直すことを起点とします。

①「文化芸術にたずさわる人たちを取り囲む労働環境」
②「大型国際展を支える仕組み、価値創出の一翼をになう展覧会企画を支える歴史的判断や美術大学で流通する言説」
③「社会にとってなくてはならない芸術文化のオルタナティブな基盤づくり」

以上3つの視点から考察し持続的なフォーラムへと育てることを目指します。

講師予定(敬称略・五十音順)

大西麻貴(建築家/横浜国立大学教授)
奥山理子(Social Work / Art Conference ディレクター)
倉智敬子(美術家/本学非常勤講師)
小泉朝未(Social Work / Art Conference)
榊原充大(株式会社都市機能計画室 代表取締役)
佐藤知久(文化人類学・本学芸術資源研究センター教授)
髙橋悟(美術家/プログラムディレクター/本学大学院研究科・美術学部教授)
田中功起(アーティスト)
津田道子(アーティスト/金沢美術工芸大学准教授)
ハン・トンヒョン(社会学・日本映画大学准教授)
松井広志(文化社会学・メディア論・愛知淑徳大学准教授)
松村圭一郎(文化人類学・岡山大学准教授)
山内朋樹(美学・京都教育大学准教授/庭師)
山峰潤也(キューレーター/一般財団法人東京アートアクセラレーション共同代表)
山本麻紀子(アーティスト/本学非常勤講師)
ほか

応募方法

応募フォームよりご応募ください。選考結果はメールにてご連絡いたします。

応募締切|2022年6月24日(金)23:59

オリエンテーション|2022年7月3日(日)13:30-15:30

Google Meetを使用したオンライン開催

実施要項

受講料|無料

募集定員|15名

期間|2022年7月-2023年3月の期間に複数回開催されます。
詳細な日程に付きましては、オリエンテーションにてお知らせいたします。

会場|京都市立芸術大学(京都市西京区) 京都国立近代美術館(京都市左京区) ほかを予定しています。 ※各講座の集合場所・詳細な開催場所については、受講生にメールにてご連絡いたします。

諸注意

・プログラムの日時や講師、会場等は変更となる場合があります。
・新型コロナウィルスの感染拡大状況により、講座をオンライン開催に変更する場合があります。
・台風などの天候や新型コロナウイルス感染防止のために開催を中止することがあります。
・オンラインレクチャーの画面録画、イベントのカメラ・ビデオ等による記録撮影が行われ、ウェブサイトや報告書、広報物等で使用させていただく場合がございます。予めご了承ください。

お問合せ先

Eメール | art-f@kcua.ac.jp

電話 | 075-334-2006(教務学生課/受付時間|平日9:00–17:00)