KCUA OPEN CALL EXHIBITIONS

Stone Letter Project #5ー圧縮と解凍

私たちの周りには印刷物が溢れています。
そしてその印刷物のほとんどは、オフセット印刷で刷られています。
今日の印刷産業におけるオフセット印刷や版画で使用される金属版は1回限りでその役目を終えますが、オフセット印刷の源流でもある石版印刷では、石版石の表面を研磨すれば何度でも新しい版として使用できます。

1970年頃、日本専売公社京都印刷工場から京都市立芸術大学(以下、京都芸大)にタバコのパッケージ印刷に使用されていた原版である340枚の石版石が移管されました。教育の場での再利用を目的として移管されたこれらの石版石はいくつかの専攻に分配されましたが、当時は金属版の普及もあって西洋画科の版画制作教室(版画専攻の前身)以外で石版を手がける学生は多くはなく、そのほとんどは今熊野校舎、そして1980年のキャンパス移転後には沓掛校舎の倉庫で、約40年間保管されたままになっていました。

これら340枚の石版石の調査をきっかけに、本プロジェクトはスタートしました。

保管されていた石版石は明治から昭和初期まで実際に使用されていたもので、約130年の時を経て明治以来の記憶を留めています。同時に、石版石の表面に残されているのは、最後に描画・印刷された図像の痕跡です。その意味でこれらの「石版」は、印刷産業の歴史の中に何層にも重なったイメージの集積と消去の歴史を語りかける、先人からの手紙のようでもあります。

本展では、340枚の石版石と、それらに残されていた分版[1]された図像を当時と同じ方法で新たに紙に刷って記録した 印刷物などを展示します。そもそも石は、物質が時間をかけて圧縮されることで生まれます。重い石版を倉庫から一枚一枚運び出し、版面上の硬化したインクを洗い落とし、石版プレス機を使用して紙に印刷する作業はまた、アーカイブ=圧縮された大容量のデータを解凍し、ひもとく作業にも似ています。それは、印刷プロセスに内包される制作者の思考と創造性に再び光を当てることでもあると同時に、沓掛校舎の片隅で倉庫に積み上げられ、イメージと時間 を包みこんできた石版という断面を通じて、京都芸大の歴史を違う視点から記録することにもなります。

個人が情報を簡単に入手し、手軽にプリンターで複製出力できる今の時代に、あらためて物質的な質量を伴う石版印刷に実際に触れることは、写真や画像などを記録し生成させる支持体としての「メディア」が、現在でも依然として「物質」であることを再認識させてくれます。当時の印刷産業を牽引した石版の記録/記憶媒体としての強度と性能を実感するとともに、プロジェクトを通して私たちが経験した、過去と現在と未来を往還する体験を多くの人と共有できる展覧会となることを願っています。

田中栄子(Lighter but Heavier/京都市立芸術大学美術学部教授)

[1]分版:2色以上のインクを使うカラー印刷では、版画の要領で使用するインクの色ごとに分けてフィルムを作ることを分版出力、分解出力といい、分解されたフィルムや版を分版という

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作家
Lighter but Heavier (片山浩、衣川泰典、坂井淳二、田中栄子)
会場
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
展示室
@KCUA 2
会期
2022年11月19日(土)2022年12月11日(日)
主催
京都市立芸術大学
映像協力
林 勇気
助成
令和3年度 京都市立芸術大学特別研究2021-009
令和4年度 京都市立芸術大学特別研究2022-010
2021年度– 芸資研重点研究プロジェクト
お問い
合わせ

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
Tel: 075-585-2010
メールでのお問い合わせは、
お問い合わせフォームからお送りください。

Artist Profiles

作家プロフィール

Lighter but Heavier(LbH)
2016年に片山浩、衣川泰典、坂井淳二、田中栄子で石版やリトグラフに関する検証・調査・研究・展覧会企画などを行うアーティストグループとして結成。

(展覧会)
2017年「Stone Letter Project #1—石からの手紙—」 Gallery TRI-ANGLE(宝塚大学)/兵庫 
2018年「Lighter but Heavier―重くもあり軽くもある—」KOBE STUDIO Y3/神戸
2019年「Stone Letter Project #2―Dialogs through the limestones―」ESPAI NAU U Escola(Llotja Sant Andreu)/バルセロナ、Facultat de Belles Arts, Universitat de Barcelona/バルセロナ 
2019年「Stone Letter Project #3 —石版工房 Site-specific Lithography̶ —」京都場/京都
2020年「Stone Letter Project #4 —The New Stone Age —」愛知県立芸術大学サテライトギャラリーSA・KURA /名古屋
2022年「Stone Letter Project #5ー圧縮と解凍」京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA/京都

(シンポジウム・ワークショップなど)
2017年10月 アワガミ国際ミニプリント展関連イベント「水と油が仲良く生み出した芸術”リトグラフ”」アワガミプリントラボ/徳島 石版画実演デモンストレーション
2018年―2019年 150周年記念事業「石版画印刷によるタバコのパッケージデザイン復刻プロジェクト」株式会社写真化学/京都 技術・制作指導
2018年10月 休日クラブ「キッチンリトグラフっていう魔法で遊ぼう!」KOBE STUDIO Y3/兵庫 キッチンリトグラフのワークショップ
2018年11月 明治150周年機械館リニューアル記念「石版印刷の実演」博物館明治村/愛知 石版手引き印刷機を使用し絵葉書を印刷しながら石版画印刷を紹介・実演デモンストレーション
2018年12月 築山有城展の関連イベント「御殿山ラーニングポイント/リトグラフ」枚方市御殿山生涯学習センター/大阪 アルミ版リトグラフのワークショップ
2018年12月 サヴィニャック パリにかけたポスターの魔法展の関連イベント「はじめてのリトグラフ」兵庫県立美術館アトリエ2/神戸 アルミ版リトグラフのワークショップ
2019年2月 カリカチュールがやってきた!19世紀最高峰の諷刺雑誌の関連イベント「不思議な “キッチン・リトグラフ”」伊丹市美術館/兵庫 キッチンリトグラフのワークショップ
2019年3月 アートおどろく公民館「あまーい?! キッチンリトグラフで版画に挑戦!」富田林市立中央公民館/大阪 キッチンリトグラフのワークショップ
2019年3月「Fragments litográfica」La Maldita Estampa/Barcelona 石版のかけらを用いた石版画のワークショップ
2019年4月「 Aplicació d’una imatge Serigràfica a la Litografia」/バルセロナ大学 スクリーン印刷を石版画へ応用したワークショプ

Installation Views

会場写真

  • 写真:来田猛