KCUA OPEN CALL EXHIBITIONS

Positionalities

金光男 東恩納裕一 山田周平

「Positionalities」の言葉を冠した本展は、3人の現代アーティスト(山田周平、金光男、東恩納裕一)の作品を並置することを通じて、作家が多様な社会・政治的問題にアプローチするときの立ち位置の重層性を浮かび上がらせる。これまでアーティストが社会・政治的問題に接近を試みるときの、その立ち位置の差異はあまり問われてこなかったように思われる。

「ソーシャリー・エンゲージド・アート」や「アート・アクティビズム」などの用語の流行が示唆するように、今日ではアーティストが作品制作を通して様々な社会・政治的イシューに切り込むことは一般的となった。ソーシャリー・エンゲージド・アートやアート・アクティビズムの観点から眺めると、美術史的文脈とも接続させながら、芸術を通して社会と個人の関係性を問い続けてきた山田、金、東恩納の実践はいずれもユニークかつ重要なものと言える。加えて、ときにエモーショナルにときに挑発的に鑑賞者を刺激する彼らの作品は、アナリティカルで客観的視座を備えた作品の多い日本におけるソーシャリー・エンゲージド・アートやアート・アクティビズムの領域で異彩を放つ。

山田周平は現代社会に対する深い問題意識と関心をもちながらも、作品における彼の立ち位置は一貫してニヒリスティックで冷笑的である。在日コリアン3世の金光男にとって、作品のテーマともつながるアイデンティティの問題は、つねに自らの実存にまとわりつき容易に距離をとって眺められるものではない。東恩納の代表作である、蛍光灯を主要モチーフとする「シャンデリア」シリーズは、日本社会に浸透するメンタリティを批評的に浮かび上がらせるが、作品のなかで彼自身の存在感は極限まで減じられている。

山田、金、東恩納はいずれも「社会-個人-歴史」の連累のなかで過激で挑発的な芸術実践を行い、それらは言語化しにくい感情や情動、あるいはその徹底した欠如に基礎付けられている点で共通する。だが、興味深いことに、彼らの作品における彼ら自身の立ち位置は大きく異なる。

複数形の「Positionalities」をタイトルに掲げる本展では、社会・政治的批評性をはらむ現代アート作品のなかにアーティストたちの異なる立ち位置(ポジショナリティ)を前景化したい。それゆえ、この展覧会は「ソーシャリー・エンゲージド・アート」や「アート・アクティビズム」をめぐる学際的議論に対しても、新たな角度から一石を投じるものとなる。

 

山本浩貴(本展キュレーター)

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作家
金光男東恩納裕一山田周平
会場
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
展示室
@KCUA 1
会期
2022年7月30日(土)2022年8月28日(日)
主催
京都市立芸術大学、Positionalities実行委員会
助成
公益財団法人朝日新聞文化財団、アーツサポート関西、京都府文化力チャレンジ
企画
山本浩貴
お問い
合わせ

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
Tel: 075-585-2010
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Artist Profiles

作家プロフィール

金 光男(きむ・みつお)
シルクスクリーンの技法を応用し、蝋を塗ったパネルに定着させたイメージに熱を加えることで、そのイメージが溶けて崩れながら固められるという独自の手法を使って作品を制作。その手法を通じて在日3 世として日本に生まれ育った状況を投影している。

主な個展
「グッド・バイ・マイ・ラブ」 LEESAYA(東京 2021)
「CONTROL CONTROL」 LEESAYA(東京 2020)
「APERTO 01 White light White heat」 金沢21 世紀美術館(金沢 2014)
「CONFUSION」MA2Gallery(東京 2014)
「Control」eN arts (京都 2014)
「SWITCH」AKI Gallery(台北 2013)

主なグループ展
「MIKADO2」 瑞雲庵(京都 2021)
「What's Next?」ART ZONE(京都 2014)
「VOCA 2014」上野の森美術館(東京 2014)

平成27 年度京都市芸術新人賞 (2016)
VOCA 2014 奨励賞 (2014)
アートアワードトーキョー丸の内2012 ・フランス大使館賞/ 木幡和枝賞
群馬青年ビエンナーレ奨励賞(2012)
京都美術工芸新鋭展 朝日新聞賞 (2012)
山田 周平(やまだ・しゅうへい)
ニヒリズムとユーモアを背景に 写真、映像、立体、平面、と様々な作品形式を展開しながら、ミニマルでコンセプチュアルな作品を制作。近年はテキストを使った作品制作に注力している。 “hahaha” の一連のシリーズは2020 年、ロンドン滞在中に失声症になった経験に由来する。
2013 年、 The Armory Show のキュレーション部門において、当時アンディウォーホール美術館 ( ピッツバーグ ) 館長のエリック
シャイナー ( 現 Pioneer Works ディレクター / ニューヨーク ) により唯一の日本人として選出され、様々なメディアで話題となった。

主な個展
Daiwa Anglo-Japanese Foundation ( ロンドン 2019 )
AISHONANZUKA ( 香港 2017,16,14 )
The Armory Show ( ニューヨーク 2013 )
CAPSULE ( 東京 2012 )

主なグループショー
「失望」gallery TOH ( 東京 2022 )
「HELLO KONNICHIWA」AISHONANZUKA ( 香港 2021 )
「 Next World―夢みるチカラ タグチ・アートコレクション × いわき市立美術館」 いわき市立美術館( いわき市 2021 )
「KUROOBIANACONDA 03 SANMAIOROSHI 」 TEZUKAYAMA GALLERY (大阪 2021)
「MIKADO2」 瑞雲庵/ ZUIUNAN( 西枝財団 京都 2021 )
「Unclear nuclear」URANO( 東京 2016 )
「Resonance」Sao La Gallery ( ホーチミン 2014 )

2003年 写真新世紀優秀賞受賞
2017年 ISCP レジデンスプログラム ( ニューヨーク ) に参加

主なコレクショ ン
タグチコレクション
G Foundation
東恩納 裕一(ひがしおんな・ゆういち)
東恩納は90 年代、日常身の回りにあるモノに潜む“ 不気味さ/ unheimlich”(フロイト)をテーマに制作をスタート、蛍光灯を多用した「シャンデリア」シリーズ、グラフィティにインスピレーションを得たスプレーによる絵画「Flowers」シリーズ、他に、インスタレーション、アニメなど複数メディアによる作品を展開してきた。近年は「un-unheimlich」( ウン- ウンハイムリヒ)」というアイデアの下( 「unheimlich」という語にあらかじめ含まれる“heim-lich(英語のhomish/home+ish)= 故郷・馴染みがある” を否定する“un-“をさらに二重化する造語です。)長らくアーティストの作品ベースにあった “ 不気味さ” という概念の機能・有効性を、いま、あらためて問い直すをことを試みている。

主な個展
VOID+、( 東京 2020 )
Yumiko Chiba Associates viewing room shinjuku、( 東京 2016)
Marianne Boesky Gallery ( ニューヨーク 2015 )
CAPSULE ( 東京 2014 )
Venice Projects( ベニス 2010 )

主なグループ展
「Play Double」heimlichkeit Nikai (東京 2022)
「GLASSTRESS 2015 GOTIKA」Berengo Studio ( ベネチア 2015 )
「MASKED PORTRAIT PART II When Vibrations Become Forms」Marianne BoeskyGallery(ニューヨーク 2011 )
「The New Décor」 Hayward Gallery( ロンドン 2010 )
「Constructivismes」Almine Rech Gallery(ブリュッセル 2009 )
「六本木クロッシング2007 未来への脈動」森美術館( 東京 2007 )
「Sea Art Festival( Living Furniture)」2006 釡山ビエンナーレ( 釡山 2006 )
「水の波紋」総合監督:ヤン・フート( 東京 1995 )
山本浩貴(やまもと・ひろき)
1986年千葉県生まれ。文化研究者。
一橋大学社会学部卒業後、ロンドン芸術大学チェルシー・カレッジ・オブ・アーツにて修士号・博士号取得。
2013~18年、ロンドン芸術大学トランスナショナル・アート研究センター博士研究員。
韓国のアジア・カルチャーセンター研究員、香港理工大学ポストドクトラル・フェロー、東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科助教を経て、
21年より金沢美術工芸大学美術工芸学部美術科芸術学専攻・講師。
著書に『現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル』(中央公論新社 、2019)ポスト人新世の芸術 (美術出版社、2022)。