VOICE @KCUA

たねまきアクア 03

榊原充大「あらゆる役割にプロがいるわけじゃない」

「VOICE @KCUA」@KCUAの広報誌「たねまきアクア」に連載中のコラムです。各号、さまざまなジャンルの書き手が登場します。 第3回は、建築家/リサーチャーの榊原充大さんです。

「建築家/ リサーチャー」という肩書きで活動をしていると、「どんなことをするんですか?」ということをしばしば聞かれる。たいていの場合、「発注者」は研究者、機関や施設、企業、行政職員などが多いこと、「建築や都市に関わりそうだけどだれに頼んだらいいのかわからないこと」で困っている方から相談を受けていること、しかるべきアウトプットを探り解決を目指していくこと、などを答えている。

「文章を書いて欲しい」とか「刊行物の編集をしてほしい」といったシンプルな相談もあれば、「展覧会を行うので会場構成やドキュメンテーション制作をお願いできる人に企画段階から入ってほしい」とか「建築に関する研究成果を活用するためにどうしたらいいか一緒に考えてほしい」とか「公共空間の使われ方と今後の使い方に関する調査分析を一緒にやりたい」といった、一筋縄でいかない相談もある。さらには「まちづくりのプロモーションはこれまで広告代理店の仕事とされてきたけど違う戦略で行いたい。どうしたらいいか」という難題も寄せられる。

「建築や都市に関わりそうだけどだれに頼んだらいいのかわからないこと」というのは具体的には上のようなことを指している。世の中には困っている人が多いこと、その困っている内容は結構クリアにしづらいこと、を感じる。と同時に、「自分よりも適任者がいるんじゃないか」と思うことも結構ある。かといってその具体的な名前は出てこない。

自分よりも状況に詳しいひとが「同じことを実はかつて誰それが……」とか、「それならば誰それの方が……」と、耳元でささやいている気がする(空想)。間違いなく、古今東西を見渡せば前例も適任もいるだろうが、「いま」「ここ」で受けている相談に本当に適しているかはわからないし、「その相談」を受けているのは自分自身なので、自らが「どのような役割を担えばいいのかから考える」役割を引き受けている。あらゆる役割にプロがいるわけじゃない、と思うことの方が前向きだ、と。

こうして受けた相談に対応するため、基本的にはチームをつくって取り組んでいる。たとえ一人で文章を書くときも依頼者や編集者とチームを組む思いで進めている。手を組む相手は、デザイナー、研究者、プログラマ、アーティスト、ライター、編集者などなど。その中にはもちろん「建築家」というひともいる。

自分も建築士の資格を持っているが、「自身の作品をつくる」くらいに設計に誇りを持つひとが必要になるシーンはある。最近は「作品」ではなく「プロジェクト」と呼び替えられたり、ワークショップで得た市民の声をいかに設計というアウトプットへと反映させられるかが重視されることも多い。「建築家という職能も変わらなければならない」「建築家はもっと社会との接点を」みたいなことを言われたりもする。自分もかつてはそのように考えていた。

でも今はさほど思わない。ある課題に対して「建築家の作品」が必要になる場合もあるし、「社会」をまったく顧みない着想から生まれた提案が望まれる場合もある。問い直されるべきは、あるアウトプットを作品と呼ぶかプロジェクトと呼ぶかよりも、むしろ、ある課題に対するアウトプットやそれを担う役割が問い直されないままであること、ではないかと思う。「誰に頼んだらいいかわからないこと」の解決のためには、アウトプットのかたちから根本的に考えられるべきであって、設計はあり得る候補のあくまでもひとつでしかない、と考えるようにしている。

あらゆる役割にはプロがいるわけじゃなく、その中には取り組む主体を待っているものも少なくない。そんな、まだ名前が定まっていない役割とともに、新たなプロジェク トが展開したりしなかったりする。そんな風景をたくさん見たいし、貢献できるときは貢献したい。

2017年4月30日(日)更新

榊原充大(さかきばら・みつひろ)
建築家/リサーチャー
1984 年愛知県生まれ。2007 年神戸大学文学部人文学科芸術学専修卒業。建築に関する調査、取材、執筆、提案、ディレクション、アーカイブシステム構築等、編集を軸に事業を行う。2008 年に共同で開始した建築リサーチプロジェクトRAD は、2015 年に「still moving」にて「SUUJIN MAINTENANCE CLUB」を実施。寄稿書籍『レム・コールハースは何を変えたのか』(2014)、制作書籍『LOG/OUT magazine ver. 1.1』(2016)。京都精華大学非常勤講師、京都建築大学校非常勤講師。