VOICE @KCUA
たねまきアクア 06
重本晋平「関係づける視点」
「VOICE @KCUA」@KCUAの広報誌「たねまきアクア」に連載中のコラムです。各号、さまざまなジャンルの書き手が登場します。 第6回は、まちくさ博士/アーティストの重本晋平さんです。
人は目に見えるものを自身の育ってきた環境や見てきたもの、体験と重ね合わせる。遠く離れた旅先の地で見た景色に、なぜか懐かしさを覚えたりするのは、自分の生まれ育った故郷と重なるものがあるのかもしれない。 臨床心理学を専門とする河合隼雄は著書の中で《内的体験を他人に伝えるには「物語る」ことが必要。物語は「関係づける」作用を持っている》と述べている。例えば自分の過去の体験を物語ることで、聞き手と自分、過去と現在、さらには自分とこの世界を関係づけているのかもしれない。
ここに「まちくさ」という視点がある。それは、まちの隙間を縫うようにして生える植物とその周辺環境(道路の路肩や電柱など)を写真に切り取り、そこへ独自の発想で「名付け」や「物語」を創作することで、見慣れてしまった景色を自分なりの想像力で塗り替えていく視点だ。私はまちくさに名付ける時「関係づけ」の作用が大きく働いているように感じている。
あるワークショップで小さなクローバーの葉に「つけものクローバー」という命名をした女の子がいた。なぜその名前にしたのかと聞くと、たまたま見つけたクローバーの色が、前日にお母さんが家で漬けていた漬物と似ていたことから〈つけもの〉と〈クローバー〉がぴったり結びついたという。「つけものクローバー」もう一度声に出してみると、その優しい響きに親子のほっこりとした日常を垣間見たようで嬉しくなった。さらに、女の子に真新しい名前を与えられたクローバーに対して懐かしい友人にでも再会した時のような親近感を覚えたのだ。
この女の子は、自分が五感を通して体験したことと目前に広がる光景を関係づけ、自らの名付けによってこの世界に新たな価値を見い出した。記憶の奥に蓄積された言語化できない「想い」が、ふとしたきっかけで意外なものと直感的に結びつくこともある。その化学反応によって産み落とされた言葉は、遥か昔からそこにあったかのような圧倒的な存在感とユーモアの力を持ち、現実と空想 (こっちとあっち)の世界を横断する通路のような役割を果たしている。
子どもたちを観察していると、突拍子もないような発言をしたり行動をして大人たちを驚かせる時がある。それはあまりに突発的で表面的には理解しがたい言動かもしれない。ただ、大人には到底測り知れないように思える子どもたちの独創的な発想の一端は、実は身近な日常と密接に関係づいてるのかもしれないのだ。
2019年3月25日(月)更新
- 重本晋平(しげもと・しんぺい)
- まちくさ博士/アーティスト
1985 年京都生まれ。京都精華大学芸術学部デザイン学科卒業。
2007 年に考案した「まちくさ」という視点を軸に、路上体験プログラム「まちくさワークショップ」を企画・主宰する。各地の小学校や施設など訪れた数は100 以上、参加者は1600 人を超える。2018 年に京都北部の綾部市へ移り住み、農ある生活を試みながら新たな創作の種を蒔く日々を過ごしている。