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たねまきアクア 08
副産物産店|北山山間地域のアトリエ
アーティストのアトリエから出る副産物に新たな価値を提供する「副産物産店」。京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻在籍中の山田毅さんと同専攻の卒業生である矢津吉隆さんによって考案されたこのプロジェクトは、二人が京都市立芸術大学のキャンパスの移転整備工事設計業務委託プロポーザルに参加したことをきっかけとして2017年にスタートし、活動の幅を広げてきました。2021年11月に開催される@KCUAでの展覧会に先駆けて、北山杉で有名な京都市北区小野郷地域に出来たばかりのアトリエにてお話を伺いました。
副産物産店 とは
01 収集
アーティストのアトリエから副産物を収集する
絵画、彫刻、版画、陶芸、デザインなど様々な分野の作品制作の現場から生まれる廃材を「副産物」と呼び、それらを仕入れて来るところからはじまります。
02 加工
副産物を加工することで新しい価値を生み出す
工房でのプロダクトの開発やアーティストとのコラボで副産物を加工して「副産加工品」を生産します。
03 流通
副産物を人の手に届ける
作品制作の現場から生まれた副産物を加工し、店舗やオンラインでの販売やイベントへの出店など、多くの人に副産物の魅力を伝えます。
山田:2017年に行われた京都市立芸術大学移転整備工事設計業務委託のプロポーザルでは、京都市立芸術大学(以下、京都芸大)からの希望として「大学と対話できるチーム」という条件が含まれていました。最終的に受託候補に選ばれたのは建築家の乾久美子さんを中心とする乾・RING・フジワラボ・o+h・吉村設計共同体だったんですが、この建築設計JVの建築家のメンバーはほとんどが関東拠点なので、京都芸大との対話に向けて、関西に知見があるメンバーを集めたリサーチ班として「機運醸成チーム」を作っていたんですね。僕たちはそのチームの一員でした。
矢津:僕ら二人は卒業生と在学生であり、アーティストという立場から、学校周りのリサーチを担当していました。プロポーザルでの提案書の中に、制作の現場で出てくるゴミを活用できるような機能を持つ「資材循環センター」というものがあり、それを実際にやるならどういうことが可能なのかをリサーチベースで考えていきました。各専攻の学生にお願いしてゴミを残しておいてもらってそれらを調べたり、ゴミ捨て場を漁ったり、どんなゴミが出ているのかなどのゴミ捨て場にまつわるエピソードを集めたりしていました。
山田:芸術大学の学生が作品を作るときに、ゴミ捨て場に行って何か使えるものを探すというのはよくある話で、廃材は必ずしもゴミとして捉られていない。また、いま若い世代のアーティストでギャラリーに所属している人が少なかったり、卒業後に大きなスタジオを持てないという現状があって、学生の時に作っていたような大きな作品を保有することができないから、それらを捨てたり解体してしまうという、学生や若いアーティストの生態系みたいなリサーチがベースにあって。それらのリサーチの結果を建築プランの中に落とし込んでいくのか、また大学の各機関とどうつながっていくのか、などの議論をしていたのが2017年の夏くらいですね。
矢津:「資材循環センター」は案としては面白いんだけども、実現するための予算もないし、人材もないということになって、建築プランからは流れてしまったんです。でも、僕はリサーチを通して「廃材の循環」の仕組みに強い関心を持ちましたし、折角こんな発見ができたのにもったいないと思って、僕ら二人のプロジェクトとしてやっていくことにしたんです。
山田:2017年の冬に「崇仁新町」という、二年間限定の屋台街をやるプロジェクトが京都芸大の移転予定地で始まったんですけど、京都芸大関係者枠で何かやって欲しいという依頼を受けたので、矢津さんにも声をかけました。その頃、矢津さんは東九条の方にkumagusuku(矢津さんを代表とする活動体。2014–20年に京都市中京区でアートホステルを運営。2021年から形態を変えて活動中)の2号店の計画(未実現)があって、僕は崇仁地域にアトリエを構えたばかりで、二人とも、京都芸大のキャンパス移転予定地周辺地域での活動について考え始めていたところでした。
矢津:とはいえ、当時kumagusukuとして売るものは何もなかったんですよね。そこで、廃材の循環のプロジェクトから何か出そうということになって「副産物産店」という名をつけて出店したんです。2017年のクリスマスから年明けあたりのことです。そうしたら、もともと美術が好きな人だけじゃなくて、仕事帰りのサラリーマンとかが買ってくれるんです。散々悩んで「ちょっと取り置きしてください」とか、それで翌日仕事帰りにまた寄ってくれて「やっぱり買います!」みたいな。その頃は値段もかなりまちまちで、すごく安いものもありました。作品を見せているのとは全然違うコミュニケーションがあって、これはすごく面白いなと思いました。そこからはときどきイベントに出店したり、展覧会をしたり、また副産物で加工品を作り始めました。
山田:大学だけでなく、作家のスタジオでも仕入れさせてもらったりして関係性を築きながら、出店や展示など、いろんな形で出先を探していきました。只本屋やkumagusukuというそれぞれの活動と並行してやっていたので、「副産物産店」はサブブロジェクト的な感じだったんですけど、それが変わったのが新型コロナウイルス感染症のパンデミックのタイミングでした。
矢津:最初の緊急事態宣言が出た2020年4月に、アートホステルとしてのkumagusukuを閉めるという決断をしました。ただ、別の形の活動に変化させることは以前から考えていて、コロナは前に進むための一つのきっかけだった、という感じです。2021年3月に形を変えて再オープンするまでの間、これから何をしていくべきかをいろいろ考えました。そして、「副産物産店」の活動を改めて組み立ててみようと思い、ウェブサイトを立ち上げたり、加工できるような工場やスペースを持つことにしました。そのために立ち上げたクラウドファンディングがこのプロジェクトを広く知ってもらう機会になって、依頼も増えて、活動の場所も京都から全国に広がっていきました。全国各地で行われている芸術祭などのアートイベントでは、地元の人たちの活動にまではなかなか手が回らないのが現状です。そういうところに僕らが行くことによって、イベントと地域との関わりを作ることができるし、資材循環という点でも注目されたんだと思います。
山田:アートに直接関わりのないイベントにも呼ばれるようになったのですが、それらのイベントでよく「SDGs」という言葉が出てくるんです。それで、自分たちの活動が「SDGs」という流れの中で理解されているということを認識しはじめました。いろいろなところに副産物を持って行って、実際売ってみたりもしたのは面白かったんですが、同時に、自分たちの活動とは何か、どこを目指していくのかを改めて考えるようになりました。それで最近は「副産物産店」とは、資材を循環させる仕組みをアートの視点で作っていく活動だと説明するようになりました。
矢津:仕組みを作って、それを社会の中で実装していくにはどうするかを考えることがそもそもの活動の目的だったんですよね。僕らが「副産物産店」を始めた頃に、「北山舎」という、同じく「機運醸成チーム」のメンバーである建築史家の本間智希さんを代表として、北山地域に関わる活動をするための一般社団法人の立ち上げに参加していたんですが、この「北山舎」の活動の中で、建物や家、林業が廃業した後に残った木材などの使われなくなった資源を、アートやデザインの力を使って活用したいという動きがあって。それなら「副産物産店」にもできることがあるなと思って、この物件を見つけて、大家さんと関係性を作りつつ、半年くらい片付けを続けて、ようやく契約という話になりました。そしてこの7月から使い始めたところですね。
山田:最初に考えていた「資材循環センター」を実現しようとすると、一個人のアーティストとしては絶対にできない。世の中の仕組みの中にどう自分たちのやりたい活動を当てはめていくかを考えると、例えば多くの資材を受け入れることができるとか、それを運ぶ中間処理の業者になれるとか、具体的なところに手が届く規模になっていかないといけない。ただのゴミを扱っている作家のままでは、環境に影響を与えるレベルにはならないんです。もう少し具体的に手を出せるようになっていきたいというのはここ数年思っていて、その規模に自分たちを上げていきたい。
矢津:廃棄物を処理する資格を取るために必要な条件がいくつかあります。廃棄物を処理するために一時的に保管する場所、それらをリサイクルするのであれば一定量の収集をしないといけないし、それを運ぶためのトラックも必要。そのためにも場所が必要だと考えていました。ここならば僕らが活用する意味があるし、キャパがあって、賃料も安い。条件的にぴったりだったんです。
山田:その上で、アートという文脈の中で何ができるのか、ということなんです。地球規模のゴミの問題は、一個人として解決できるものではありません。理想論に終わらせないためには、手の届く規模に範囲を定めて、活動していかなければならない。京都にはアーティストランスペースがたくさんあって、生業をやりながらアーティストを続けているような人がいっぱいいるので、まず、その身近な世界を変えることが目標です。
矢津:ゴミの問題以前に「人が物を作る」ということに根本的に興味があって僕らは取り組んでいるし、僕らがアーティストであり続ける理由もそこにあるのかなと思います。もし時代が大量生産、大量消費に悲観的になり、作る活動を縮小していく時代になったとしても、アーティストは物を作り続けるだろうし、それは必要なことだと思う。僕らはアートのゴミを集めるけれども、アートの活動で出るゴミを無くそうとしているわけではない。なので、僕らは常にアーティストとしてどうアプローチしていくのかということが大事だと思っています。この場所を活用するにあたって、メンバーとしていろいろな人が関わってくれているんですけど、その中にはアートのゴミだけではなくて、もう少し広い幅で廃棄物等を扱って生業にしている人たちもいるので、僕らが活用しきれないような物の別の出口を作るとか、その可能性をいま作ろうとしている感じです。
山田:11月の@KCUAの展示は、大学の移転プロジェクトの中で出てきた「副産物産店」というものを、もう一度出発点に戻って考える機会にしたいと思っています。せっかく大学のサテライトギャラリーである@KCUAという場所でやるので。そして、期間中にいろいろな人たちとの対話をしていきたいと思っています。設計に携わっている建築設計JVのメンバーとか、大学の先生方とか、サークルエコノミーの研究家とか、そういった人たちとの対話を通して、もう一度、新しい資材循環センターみたいな企画を大学に提案するのも面白いかもしれません。
矢津:ただ資料を眺めるだけではなくて、そこで対話できるとか。実際に来館者が加工できる場所を作って、そこでリアルタイムで何かが出来ていくような、現在進行形の何かを作りたいなと思っています。
山田:京都芸大って音楽学部もあるし、アーティストという括りは音楽まで広がるので、音楽の人たちがどういうものを副産物として出しているのかというのは気になっていて。 @KCUAの展示では、音楽学部の学生と一緒に廃棄楽器や廃材を使った楽器「廃楽器」を使って演奏会をしようという企画があります。それがいま、どんどんメンバーが増えていってて、最終的にはオーケストラみたいになるかもしれない(笑)。楽しみです。
2021年10月31日(日)更新
- 矢津吉隆(やづ・よしたか)
- 1980年大阪生まれ。京都市立芸術大学美術学部彫刻専攻卒業。作家活動と並行して宿泊型アートスペースkumagusukuのプロジェクトを開始。2014年から〈KYOTO ART HOSTEL kumagusuku〉を運営。20 20年春に閉業し、新たに自宅のガレージを改修したスペース〈kumagusuku SAS〉を副産物産店の拠点としてオープン。「副産物産店」のほか、アート思考を学ぶ私塾「アート×ワーク塾」、古民家をスタジオとして改修して貸し出す「BASEMENT KYOTO」など活動は多岐にわたる。京都市在住。
- 山田 毅(やまだ・つよし)
- 美術家、只本屋代表
1981年東京生まれ。2003年武蔵野美術大学造形学部芸術文化学科卒業。現在、京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻博士後期課程在籍。 映像表現から始まり、舞台やインスタレーションといった空間表現に移行しナラテイブ(物語)を空間言語化する方法を模索、脚本演出舞台制作などを通して研究・制作を行う。2015年より京都市東山区にて「只本屋」を立ち上げ、京都市の伏見エリアや島根県や宮崎県などで活動を広げる。現在、作品制作の傍ら様々な場作りに関わる。京都市在住。
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