笹岡由梨子は、黒子が糸で操るなどのローテクな手法で動くのっぺらぼうの人形が登場する動画を撮影し、その編集過程で人形の顔や手足に実写の顔やパーツをCG合成するなど、往年の特撮映画をも彷彿させる手法で映像作品を制作してきた。誰もが知っているパーツをつなぎ合わせて創り出された誰も見たことのない世界で展開される物語は、すべて緻密な構成・モチーフ設定に基づいており、未知に織り交ぜられた既視、予想の出来ない展開と結末は、観る者に能動的な理解と思考を促す。そこには社会へのクリティカルな視点とユーモアを見出すことができる。
本展「Hello Holy!」にて笹岡は、「建国」をテーマに、アニメーション・実写・ビデオコラージュなど様々な映像形式を用いて制作した2点のビデオインスタレーションと3点のビデオ、そしてそれらに用いた一連のドローイングを発表。「絵画のように鑑賞者が想像力を働かせ、作品と対話を試みる。そんなビデオ作品を作ることは可能か」という、ビデオ作品に対しての笹岡の原点となる考えを強く反映させたものとなった。また、作家が独自に制作した「ホロル語」で話される架空の国の物語は、リファレンスや文化を混ぜ合わせることにより、新しいビデオ表現の可能性に言及している。既存の概念に囚われないカオティックな作品の根底には旧約聖書の十戒や創世記も題材とする壮大なストーリーがあり、「ホロル語」を用いることによって言葉による理解に頼らない、普遍性の高い鑑賞体験を作り出していた。