ウーカシュ・スロヴィエツ《ヤコブの夢》 ビデオからのスチル、2020

KCUA OPEN CALL EXHIBITIONS

Lost in Translation

本展のテーマは以下の三つである。

1. 大災害、大変動の時代に革命的変化を求める世相を追い風に、世界の価値観を刷新し、単に牧歌的・ユートピア的なヴィジョンではない、新しい持続可能なモデルを構築することは可能だろうか。

2. 資本主義を葬り、既存の不平等を是正して、より大きな社会正義が実現され、社会から排除されてきた集団も包括するような新しいシステムを提案することは可能だろうか。

3. 言語コミュニケーション上の齟齬、誤解、またそもそも失敗というカテゴリーは、芸術的実践の基礎となりうるだろうか。それは逆説的に、互いを知ることや相互理解の最良の方法にならないだろうか。

こうした問いに答えようと、様々な文化的背景を持つ作家たちを交えて継続的に取り組んできた成果が本展では示される。滞在制作、あるいはリモート制作された本展は下の三つのパートから成る。

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災害ユートピア

レベッカ・ソルニットが提唱した概念によれば、大規模な災害が発生すると、人々の連帯感・気分の高揚・社会貢献に対する意識が高まり、一時的に高いモラルを有する(理想的といえる)コミュニティが生まれる。そのコミュニティは災害発生直後の短期間だけ持続し、復興が進み共通意識が薄れるに従って、自然と解体されていく。それは災害を契機に生み出され、消えるユートピアと言えよう。歴史学者テッサ・モリス゠スズキは、日本でも2011年の東日本大震災直後、絆や復興をスローガンに社会活動が起こったが、次第に縮小していったことを指摘している。現在渦中にあるCOVID-19の場合も、ベーシック・インカムなどこれまで実現不可能と考えられてきた思想が注目を集めている。

不可能を可能に

一方、アーシュラ・K・ル゠グウィンは『反グローバル資本主義』に「私たちは資本主義の時代に生きており、その権力は不可避に思える。しかし王権神授説も同様だった」と書いた。ポストコロナ時代には、従来の常識を覆す思想が新しい基盤になりうる。つまり、フェミニズム、LGBTQ+、外国人・移民受け入れなど、社会に拒絶されてきた思想・世界観を再考し、社会を更新する機会になるのではないか。

ロスト・イン・トランスレーション

「ロスト・イン・トランスレーション」という言葉は、何らかの欠落、意味伝達の不可能性、それに伴うコミュニケーションの阻害や疎外感を指しているように思える。しかしこの態度を肯定的に捉え、迷うことを自分に許すなら、それはお定まりの型やスキーマに従うこと、頼ることをやめ、完璧で誤謬のない退屈な翻訳では誰も気づかないような、全く別の新しいコミュニケーションをひらくきっかけとなるのだ。

 

パヴェウ・パフチャレク
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作家
コレクティヴ・ワスキアリツィア・ロガスルカ川嶋 渉笹岡由梨子ウーカシュ・スロヴィエツ高田冬彦TŌBOE (西條茜+バロンタン・ガブリエ)ピョトル・ブヤク
会場
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
展示室
@KCUA 1, 2, Gallery A, B, C
会期
2021年9月1日(水)2021年9月19日(日)
開館時間
11:0019:00
休館日
月曜日
入場料
無料
キュレーター
パヴェウ・パフチャレク
企画
YPエンタープライズ
主催
京都市立芸術大学
助成
公益財団法人朝日新聞文化財団、アーツサポート関西
協力
アダム・ミツキェヴィチ・インスティトゥート
一般社団法人HAPS
お問い
合わせ

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
Tel: 075-253-1509
メールでのお問い合わせは、
お問い合わせフォームからお送りください。

Artist Profiles

作家プロフィール

川嶋 渉(かわしま・わたる)
1966年京都府生まれ。京都を拠点に活動。1989年京都精華大学芸術学部造形学科日本画コース卒業。京都市立芸術大学美術学部日本画専攻教授。川嶋が着目する「距離」と「時間」は、日本画で独自に発展してきた花鳥画に更なる展開を見せている。彼が描く「水」は、手の届く、愛でる距離に流れ、山水画の「水」でもなく、風景画の「水」でもない。また、人の命の儚さを花の命に例えて描くのが花鳥画とするならば、一瞬でその姿を消し去る「水」を描く彼の意図は明白だ。近年の主な展覧会に「KYOTO STEAM 2020 国際アートコンペティション スタートアップ展」(京都市京セラ美術館東山キューブ/2020)、個展「粒であり 波である」(大雅堂/2019)では、日本画を構成する墨・膠・紙などの画材を、一つのユニークな素材として解体し、インスタレーション作品を発表している。
笹岡由梨子(ささおか・ゆりこ)
1988年大阪府生まれ。京都を拠点に活動。2014年京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻油画修了。2017年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程メディア・アート専攻満期退学。笹岡の映像を用いたインスタレーションでは、奇妙で強烈な印象を与える登場人物たち(操り人形のこともあるが、顔や身体のパーツは作家自身のものを合成)がコミカルな動きを見せる。華やいだユーモラスな表現に見え隠れするのは、やはりある哀愁や儚さ、悲しみへの共感であろうか。こうした両儀的な質が一層魅力を際立たせる。近年の主な展覧会に「水の波紋2021展 消えゆく風景から― 新たなランドスケープ―」(渋谷区役所 第二美竹分庁舎 / 2021)、「まみえる 千変万化な顔たち」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 / 2021)。
Łukasz Surowiec(ウーカシュ・スロヴィエツ)
1985年ジェシュフ生まれ。彫刻、舞台美術、パフォーマンス、映像、社会活動など分野を越えて活動する作家。クラクフ美術大学彫刻科卒業。ポズナン美術大学とベルリン芸術大学にも学んだ。オブジェやアート・インターベンションで現在の社会的関係を鋭く突いて検証を行い、歴史的・政治的問題に取り組んでいる。国内外で開催された数多くの個展やグループ展で作品を発表している。代表的なものに 「Clinic」(ポズナン/ 2016、クラクフ現代美術館/2019)、「Show Me Your Hands」(Kreis Galerie /ニュルンベルク/2020)、「In the beginning was the deed !(はじめに行為ありき)」(アルセナウ美術館/ビャウィストク/2021)などがある。
高田冬彦(たかた・ふゆひこ)
1987年広島県生まれ。千葉県を拠点に活動。2017年東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程油画研究領域修了。高田は、神話、おとぎ話、性、ジェンダー、ナルシシズム、トラウマなど、多様なテーマやイメージを扱ったポップでユーモアあふれる映像作品を制作している。そのほとんどは作家の自宅アパートの密室で撮影されており、手作り感あふれる演出と時折登場するエロティックな表現が特徴で、一見すると荒唐無稽なストーリーは、人間社会に対する様々な問題提起をはらんでいる。近年の主な個展に「LOVE PHANTOM 2」(WAITING ROOM/ 2021)、「MAMスクリーン011:高田冬彦」(森美術館/ 2019)。
TŌBOE(トーボエ)
陶磁器を軸にした作品制作を行う西條茜と、声や息を用いてパフォーマンスを行ってきたバロンタン・ガブリエによるユニット。扱う素材は異なるが、これまで共通して、作品による身体へのアプローチを行ってきた。2020年よりTŌBOEとして「陶芸」と「息・声」を用いて陶製のサウンドオブジェクトを制作する。2021年「KYOTO ART LOUNGE EXHIBITION 表裏のバイパス」(藤井大丸ブラックストレージ)参加。

西條 茜(さいじょう・あかね)
2014年京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程工芸専攻陶磁器分野修了。2013年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート交換留学。2020年度京都市芸術文化特別奨励者認定。「空洞」でありながら「リアリティある表面」という陶磁器の特徴に着目する一方、世界各地の窯元などに滞在し、地元の伝説や史実に基づく作品を制作。主な個展に「胎内茶会」(京都市営地下鉄醍醐車庫/ 2021)「タブーの室礼」(ワコールスタディホール京都 / 2019)。

Valentin Gabelier(バロンタン・ガブリエ)
2021年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程構想設計専攻単位取得退学。 2016年EESABレンヌ(フランス)美術学校学修士修了。パフォーマンス、インスタレーション、ビデオ、サウンドを主な媒体としながら「声」を通して世界と私たちの狭間にある異なる関係性を研究している。私たちが持つアイデンティティのひとつでもある「声」のその不安定で多様性があり曖昧な存在という特徴によって生まれる個人という概念の解体・分裂・多様化に着目している。
「Chorós」(Baléapop#10/フランス/2019)。
グループ展「PARTITION―パーティション」のキュレーションと出展(京都市立芸術大学ギャラリー @KCUA /2018)。
Piotr Bujak(ピョトル・ブヤク)
多様な技法を用いる作家であり研究者。1982年ベンジン(ポーランド)生まれ。 2009年にヤン・マテイコ美術大学(クラクフ、ポーランド)、2012年にサンフランシスコ・アート・インスティテュートを修了。2017年から2019年まで東京藝術大学研究生。現在は多摩美術大学大学院博士後期課程在籍。フルブライト大学院奨学金(2010 –2012)や日本政府奨学金(2017–現在)などを受賞。実験的人類学と、研究に基づくラディカルアートの方法論を通じて、現代の比較文化的社会批判の新たなアプローチを考案することに関心を持つ。制作では主に「低予算で手早く、DIYで、電撃的に、創造的なリサイクリングで」を戦略とする。作品は多領域にわたり、これらを組み合わせる。
Alicja Rogalska(アリツィア・ロガルスカ)
ポーランド出身でロンドンとベルリンを拠点に国際的に活動する作家。活動分野は多岐にわたる。制作はリサーチに基づき、社会構造や日常の政治的背景に焦点を当てる。特定の文脈に身を置き、状況、パフォーマンス、ビデオ、インスタレーションを他の人々と協力して作りながら、自由な未来のためのアイデアを共同で探すというアプローチを取る作品が多い。ワルシャワ大学でカルチュラル・スタディーズの修士課程、ゴールドスミス・カレッジで芸術修士課程を修了し、現在はCHASE助成金を得て同大学の芸術研究科博士課程在籍。実践に基づく研究では、未来志向の社会関与型アートの実践が、政治的想像力の危機の理解にいかに貢献し、また介入しうるかを調査している。ロガルスカは現在、エセックス大学社会科学部のアーティスト・イン・レジデンス(2019–2021)およびDAADアーティスト・イン・ベルリン・プログラム2020に参加している。
Paweł Pachciarek(パヴェウ・パフチャレク)
1986年ポーランド生まれ。大学講師、美術評論家、インディペンデント・キュレーター、時にパフォーマー。現在は大阪大学の研究者。ポズナンのアダム・ミツキェヴィチ大学言語・文学研究科日本学専攻修士課程修了(2012年)。草間彌生の文学と美術との関係を扱った博士論文により大阪大学で博士号取得。比較文学、美学、美術史の現代的問題に焦点を当てた研究を行う。社会関与型の美術活動や、フェミニズム、クィア・スタディーズ、歴史社会的再解釈など社会批判の分野の課題を研究対象とする。2017年よりポーランド共和国文化・国家遺産・スポーツ省の傘下機関で、ポーランドの文化・芸術の普及活動を行うアダム・ミツキェヴィチ・インスティテュートの日本デスクを担当。また2019年に京都、ポズナン、シュチェチンの三都市で連続開催された過去最大規模の日本ポーランド現代美術展「セレブレーション」をはじめ、国内外で展覧会のキュレーションを手がける。
Kolektyw Łaski(コレクティヴ・ワスキ)
(Anna Shimomura 下村杏奈, Julia Golachowska ユリア・ゴラホフスか, Jagoda Kwiatkowska ヤゴダ・クフャトコフスカ)2018年からポーランドで活動しているフェミニスト団体。三人はワルシャワ美術大学のメディア・アート科で出会い、それ以来、友情をつちかいながら政治と社会問題に関わる製作を続けている。「言葉」と「声」を素材として扱いながら、懐かしいメロディーの力を利用して現実を少しずつ変えていくプロジェクトを実施している。

Artworks/Photos

参考作品画像など

  • 川嶋渉《粒であり波である》和紙、墨、2019(撮影:福永一夫)
  • 笹岡由梨子《Planaria》マルチチャンネル・ビデオ(9分55秒、サウンド、ライト、アルミニウム、絨毯、布、2020–2021(提供:MIMOCA 撮影:KEI OKANO)
  • 高田冬彦《The Princess and the Magic Birds》映像、音声、17分52秒、2020–21
  • TŌBOE(西條茜+バロンタン・ガブリエ)《ホムンクルス/Homunculus》 陶磁器、2020
  • ピョトル・ブヤク《トーク・トークⅡ》ビデオ・インスタレーション、2021
  • アリツィア・ロガルスカ《王族》ビデオ、2018年