STUDIO VISIT @KCUA
たねまきアクア 06
今村遼佑、久門剛史|二つ並びのスタジオ
@KCUAが様々なアーティストのスタジオを訪問し、作品とそれが生まれる場所との関係にせまるシリーズ「STUDIO VISIT @KCUA」。今回訪れたのは、彫刻専攻を卒業したのち、国内外のプロジェクトに多数参加している今村遼佑さんと久門剛史さんの仕事場です。それぞれが独立したスタジオでありながら、隣同士に建つ一風変わったスタジオを訪問しました。
スタジオの条件と二人の距離
久門:僕はまず無条件に広く自由度の高い場所が欲しかったんです。屋外で気分転換もできて、作業できるような。今はスマホなど手の中にあるデバイスをはじめ、あらゆるものから常に大量の情報が入ってくるので、そういったものと距離を取りたかった。情報が必要な時は、自分から外の都市や街に出掛ければいいので、それ以外は穏やかにしていられる方がいいと思っていました。 また、例えばアクセスの良い市内のアトリエであれば、何かの機会にあわせてキュレーターにスタジオビジットに来てもらいやすいかもしれない。けれど、わざわざ来てもらえる作家になりたい、そうやってわざわざ来てくれる人と意味のある仕事をしたい、とチェンマイの山奥に住むアピチャッポンさんの家を訪問したときに感銘を受けて、そう思うようになりました。 でも、実はここは京都駅から電車1本で来れるので意外にアクセスは良かったりするんですけど。
今村:僕は2017年8月からポーラ美術振興財団の助成をもらって1年間ポーランドに滞在していました。残り滞在わずかになった頃から、帰国した後はこれまでより大きなスタジオを探したい、と考え始めていたところ、ちょうどタイミング良く久門くんから「一緒にスタジオを探さないか」と連絡があって。 ワルシャワにいる時から、日本に戻ったら中古でもいいから車を買って、スタジオに通おうと考えていました。行動範囲を広くしたかったし、都市部を離れると自由に使える場所も増えるので、そもそもスタジオが街中にあるメリットをあまり感じていませんでした。 これまでも僕は単独スタジオでやってきていたのですが、久門くんから声をかけられた時、広い空間が手に入るのであれば、今のタイミングでシェアするのも面白いかなと。 この場所を決めるまではかなり粘って様々な場所を見に行ったんです。僕たちが住んでいる長岡京市や向日市から車で1時間以内の場所を候補にしていたので、南は京田辺市まで、東は大津市まで。最後にようやく条件と環境が揃ったのがここです。最終的に2棟が並んだ理想的なかたちの独立スタジオを見つけることができ、本当にラッキーでしたね。
久門:僕たちは、予備校も大学も専攻も同じで20年近い付き合いなんです。互いにキャリアを積み、二人とも独立したスタジオを強く望んでいたけれど、程よくそれぞれ大人になり、なんとなく今ならある部分でシェアがあると楽しいかも、と思えました。「この壁どうやって建てたん?」とかは聞くけど、作品の内容とかについてはお互いほとんど干渉し合いません。
場所はフィジカルに作品に影響する
今村:僕の場合出来上がる作品がそれほど大きくないので、大きなスペースは必要ないのではと言われることもあるのですが、ここなら平面、電子工作、立体など様々な作業を同時並行で進めていくことができます。以前は一つを完了させたら片付けてから次を開始させていたので単純に効率が悪かったと思います。
1年間のポーランド滞在からの帰国に伴い仕事や住居が変わるなど生活面でも多くの変化があったので、自分の中に感じる変化は、スタジオだけが理由ではないかもしれません。僕は卒業以降古いアパートをスタジオにしていて、ほとんどの作品を畳の上で作っていたのですが、これからは作り方が変わるかもしれません。些細なことですが、2mを超える木材を転がして組み立てるという作業をここで久しぶりにやったように思います。ここに引っ越してきたから何か新しいことを始めるというわけではないですが、最初は冗談で言っていた、大理石を使った石彫や大きめの絵を描きたいなと考え始めています。
久門:僕が感じる最大の変化は、実際に展示する場所のスケール感に近いサイズで簡単な展示のシミュレーションが可能ということ。それと、ぼーっとできる時間が増えたこと。僕の以前の住宅街にあった8畳くらいのスタジオでは不可能でした。今村もそうかもしれませんが、狭いスペースで作って大きな場所に持って行って見せるということをしばらく続けてきましたが、狭い場所でやれることはやりきった感覚があったので、今は次のチャレンジをしたいと思っています。
日本ではない場所で作ることを考える
今村:僕が1年間ポーランドに行きたいと思った理由は、人生経験を濃くするために日本以外の場所に生活拠点を置いてみたいと考えていたから。なので、最初から作れる環境はなくてもいい、必ず作品を作らないといけないわけではないと思っていました。しかし、ポーランドで所属していたミロスワフ・バウカのゼミでパフォーマンスやプロジェクト型の作品に参加することがあり、これまでに自分が関わってこなかったこれらのジャンルに触れる良い経験になりました。このことから結果的に、自分を映像の中に登場させた作品を作るという、これまでにやったことのない新しいチャレンジにもつながりました。面白いことに、外国で外国語を喋って生活していると、自分という人格をとても客観的に感じ始めます。そのせいか、映像の中に自分を登場させることに何のためらいも持たなかった。自分という人間に対して、距離をとって接することができたことが面白かったですね。今は長期で海外に行くことは考えていません。短期レジデンスで行く機会があれば行きたいですね。
久門:7月から短期レジデンスで3ヶ月ベルリンに行きますが、僕も今は長期で滞在しに行くことは想像できません。僕は海外に行くとどうしても作るものや買うものが限定される感覚になるのが今はフィットしません。どこでも買える素材、作りやすいもの、運びやすいものを起点に考えるのも嫌だし、旅ばかりになりたくない。
亀岡の自然とマイペースに付き合いながら
久門:ここは元農機具倉庫だったので、最初は埃と砂の掃除から始め、徐々にDIYで手を入れてきました。僕の棟は窓が少なかったので、壁の一部を透明波板に張り替えたり、部屋の一面は白壁にして、内部に小屋を建てました。そうこうしているうちに展示の予定や目先のタスクに追われるようになり、改装はストップしていますが、たまに気分転換に棚やテーブルを作ったりしています。朝来て、掃き掃除、植物の水やりや剪定、メールチェックをして、制作。日中は電気をつけず、夕方暗くなったら帰る、というのが基本のルーティーンになっています。
今村:僕も借り始めたのは久門くんと同じ時期なのですが、直近に展示があったせいで改装している時間が全くなく、季節も変わった頃にやっと白壁を建て始め、シャッター外に扉を作ったりして今ようやく使えるようになってきました。まだ配置も仮なのですが、これから必要に応じて棚や物置のようなものを作りたいと思っています。週4日は別の場所で働いているので、週2、3日来ています。実はこのスタジオの雑草の勢いがものすごくて、窓から見える程なのですが、意外にもこの殺風景なスタジオにちょうど良い感じになってきています。僕の植物ももっと増やしたいですね。
2019年3月25日(月)更新
- 今村遼佑(いまむら・りょうすけ)
- 1982年京都生まれ。光、音、匂いなど環境に対する人の知覚を元に、その関係性を考察し、インスタレーション、映像、立体など様々な形にて作品を展開している。主な展覧会に、「雪は積もるか、消えるか」(個展、アートラボあいち、愛知、2018年)、「オープンシアター『KAAT突然ミュージアム2016』」 (神奈川芸術劇場、神奈川、2016年)、「アート・スコープ 2012–2014」(原美術館、東京、2014年)、「ヨコハマトリエンナーレ2011」(横浜美術館、神奈川、2011年)など。ワルシャワ(ポーランド)滞在(ポーラ美術振興財団助成、2016年)、ベルリン滞在(メルセデス・ベンツ アート・スコープ、2013年)、ロンドン滞在(Camden Arts Centre、2015年)など海外滞在も多い。
- 久門剛史(ひさかど・つよし)
- 1981年京都生まれ。身の回りの様々な現象や歴史的事象を調査し、それらを人工的に作り出す音や光、風などを用いて、劇場的空間に再現するインスタレーションや立体作品などを発表している。近年の主な展覧会に、個展「トンネル」(オオタファインアーツ、2018年)、個展「MoCA Pavilion Special Project Tsuyoshi Hisakado」(上海当代芸術館、2016年)、「あいちトリエンナーレ2016」など。2016年世界各国で上演されたチェルフィッチュ『部屋に流れる時間の旅』の舞台美術を担当。在学中にはロイヤル・カレッジ・オブ・アーツ(ロンドン)へ交換留学したほか、ベルリンにも滞在した(メルセデス・ベンツ アート・スコープ、2018年)。2019年5月よりアピチャッポン・ウィーラセタクンとの共同制作《Synchronicity》が「第58回ヴェネツィア・ビエンナーレ」のアルセナーレにて展示される。
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