REPORT @KCUA
たねまきアクア 06
京都賞受賞記念 ジョーン・ジョナス ワークショップ
Text: 池澤茉莉(熊本市現代美術館 学芸員)
第34回 京都賞記念ワークショップ「パフォーマンスとメディア・アートのラディカリズム ―ジョーン・ジョナスとその変遷あるいは継承―」では、ジョーン・ジョナスによる基調講演、作品上映に続いて、金氏徹平+contact Gonzoによるパフォーマンス、笹岡由梨子による映像作品のプレゼンテーション、そして出演者によるディスカッションが行われました。その様子を熊本市現代美術館の池澤茉莉さんにレポートしていただきました。
第34回 京都賞記念ワークショップ[思想・芸術部門]
パフォーマンスとメディア・アートのラディカリズム ―ジョーン・ジョナスとその変遷あるいは継承―
日時:2018年11月14日(水)19:00
会場:ロームシアター京都 ノースホール
企画:橋本裕介(ロームシアター京都 プログラムディレクター)、藤田瑞穂(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA 学芸員)
主催:公益財団法人 稲盛財団
企画・制作:ロームシアター京都
後援:京都府、京都市、NHK
Photo courtesy of the Inamori Foundation
© Yoshikazu Inoue
ジョーン・ジョナスが第34回京都賞を受賞した。それに関連して、2018年11月、ロームシアター京都においてワークショップ「パフォーマンスとメディア・アートのラディカリズム ―ジョーン・ジョナスとその変遷あるいは継承―」が開催された。ここでは、その多様なプログラムの中から、金氏徹平とcontact Gonzoによるパフォーマンスについてレポートする。
パフォーマンスの始まり、contact Gonzoの3人、金氏徹平と20人近くの学生らが、ステージの周りにバラバラと登場する。そして中央の空いた空間をつかって、contact Gonzoによるパフォーマンスが始まる。身体が衝突する音、漏れる声、間合い、動きなどを観客は追っていく。
徐々に金氏と学生らがステージ全体へと広がっていく。彼らは、ビデオカメラやプロジェクター、鏡などの小道具を各々持っている。中には、激しく動き回るcontact Gonzoと同じステージにて大丈夫なのだろうかと心配するほど、差異を感じさせる者もおり、contact Gonzoの「接触(コンタクト)」に対し、身体の所在を感じさせないスローな動きだけがステージに漂い出す。
いつの間にか金氏らがつくりあげた空間を、contact Gonzoの方が逆に縫うような形で、接触せずに動いていく。その様子を、金氏らの誰かが手にしているビデオカメラでリアルタイムに撮り、その映像をまた別の誰かがそのままどこかに投影する。天井から垂れ下がるスクリーンや壁に、複数のアングルが次々映し出される。ステージで繰り広げられているそれら全てが、捉えられ記録され公開されているようでいて、観客である私たちはその全体を掴みきれない。なぜなら、全体を見ているはずの観客席からの視線は、そこに行き着くまでに分散される。カメラやプロジェクター、鏡、ステージ上の人間の複数の視点が交錯・変化していくことで、観客の視線は全く別の場所に遭遇したりする。
会場には激しいライブ感やカオスが生じているというわけではなく、「こぽっ」とした小さな空間がステージ上のところどころに時折生まれているようだった。コップの水にストローで息を吹き込み、ぶくぶくさせるような。ただ緩やかに存在することで、どこかに「空き」や「穴」を生み出す。
本プログラムの基調講演において、ジョナスは1960–70年代に自身が活動した場所や、その「小さな世界」において出会った様々なアーティスト、彼らが行っていた新しい「何か」について紹介した。企画者の一人である橋本は、新たなものを生み出す「空き地」のない現代日本の閉塞感について語っていた。そのような 状況を踏まえた金氏とcontact Gonzoが、ジョナスへのオマージュという設定 のもと、自分たちの現状を投影したパ フォーマンスだった。そこに、生み出さ れた「空き地」や「穴」を垣間見たような気がしなかったわけでもなかった。
パフォーマンスのラスト、ステージは暗 くなり、奥の明るい出口(入口?)へと パフォーマーたちは去っていった。
2019年3月25日(月)更新
- 池澤茉莉(いけざわ・まり)
- 熊本市現代美術館 学芸員
京都国立近代美術館研究補佐員、「PARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015」アシスタントキュレーターなどを経て現職。企画・担当した主な展覧会に、GIII vol. 118「風を待たずに——村上慧、牛嶋均、坂口恭平の実践」(熊本市現代美術館、2017)、「渚・瞼・カーテン チェルフィッチュの〈映像演劇〉」(熊本市現代美術館、 2018)。
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