REPORT @KCUA

still moving final: うつしのまなざし

学長室壁画引越しプロジェクト|沓掛編

藤田瑞穂(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA チーフキュレーター/プログラムディレクター)

2023年10月、京都市立芸術大学はJR京都駅東側エリアの新キャンパスへ移転します。@KCUAでは、沓掛キャンパス学長室の壁画を新キャンパスへと「引越し」させるプロジェクトに取り組んでいます。

沓掛キャンパス学長室の壁画(フレスコ画)は、鷲田清一前学長による学長室の大改造プロジェクトの一環として、2015年度後期に当時の本学関係者の協力のもと、美術家の川田知志によって制作されたものです。制作から7年余りの時を経たこの壁画を、フレスコ画の移設技法であるストラッポを用いて壁面から描画層のみを引き剥がし、@KCUA(堀川御池)に運び込んで別の支持体にうつして移動可能な状態にしたのち、新キャンパスへと運び込みます。

「沓掛編」では、調査、テスト作業からストラッポで壁画が剥がれるまでのプロジェクトの様子をレポートします。

(写真撮影:来田猛/掲載動画撮影:筆者)

川田知志は以前より、展覧会への出品という一時的な作品展示のあり方に、壁画という作品形態をどのように適応・変化させるかをさまざまな方法で模索してきました。保存・修復の過程で用いられる、フレスコ画の描画層のみを剥がして移設する技法である「ストラッポ」を表現手法として用い、壁画の新たな可能性を探る作品も複数手がけています。

これまで川田がストラッポを用いてきた作品は、制作の全ての工程が川田自身の手によるものです。経験を重ねるごとに技術も磨かれ、現在では、ストラッポを施した後の状態変化をかなり正確に予想できるようになっているそうです。

しかし、京都市立芸術大学沓掛キャンパスの学長室壁画は、学生、教職員など大学関係者の手が多数入っており、また制作から7年が経っているということからも、川田にとって未知の部分が少なからずありました。そこで川田は、壁画の歴史・修復と移設の伝統技法をあらためて参照しながらいくつかのテストピースを制作し、どういった方法で臨むのがベストかを模索していきました。

学長室にて、修復家の田口かおり氏(京都大学大学院人間・環境学研究科准教授)にテストピースのストラッポを実際に見ていただきつつ相談しているシーン。テストピースを固定しているのは赤松玉女学長(学長就任以前は油画専攻にて壁画研究室を担当)。

ストラッポを施したテストピース

修復家の田口かおり氏(京都大学大学院人間・環境学研究科准教授)より、この学長室壁画は複数の漆喰層のレイヤーに分かれているため、ストラッポにあたっては、一度に全てを剥がしてしまうのではなく、二度に分けて作業をした方が良いとのご助言をいただきました。また、田口氏ならびにフレスコ画修復の第一人者である前川佳文氏(壁画保存修復士/東京文化財研究所文化遺産国際協力センター主任研究員)にもアドバイスをいただき、今回のストラッポで表打ち(表面に膠を塗り、布地などを貼り付ける)・裏打ち(裏面をよく伸ばしたのち非水溶性の接着剤を塗布して布地などに貼り付ける)に用いる素材や配合などを吟味しながら、テストが進められていきました。

そして7月21日(金)・22日(土)の2日間にわたり、表打ちの作業が行われました。田口氏、そして川田がフレスコ画を教わった指導教員でもある赤松玉女学長も作業に加わり、まる2日間、壁画に向かい合うこととなりました。

川田知志と赤松玉女学長の師弟協働作業。田口かおり氏も2日間の作業に全面参加。

約1週間の乾燥期間を経て、前期セメスターの最終日である7月28日(金)夕刻に、1層目のストラッポが行われました。学内は引越し前の大掃除の真っ最中でしたが、駆けつけた何人かの学内関係者が見守るなか、川田と赤松学長によって壁画は引き剥がされていきました。これは川田にとって、過去最高難易度のストラッポだったということです。

翌29日(土)には窓下の壁画を地の壁ごと切り取る作業が行われました。3時間の格闘ののち、トラックでの作品集荷時間が迫るなか、ようやく壁が切り離されたシーン。

7月31日(月)、8月4日(金)の2層目の表打ち作業の後、8月9日(水)にストラッポが行われ、沓掛キャンパスでの作業が終了。

1、2層目ともにストラッポが完了し、壁画は@KCUAへと運ばれていきました。ここからは、@KCUAでの修復・再構成の作業となります。

(「@KCUA編」に続く)

2023年8月12日(土)更新

川田知志(かわた・さとし)
1987年大阪府生まれ。
2013年京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻油画修了。近年の主な展覧会に、「ホモ・ファーベルの断片―人とものづくりの未来―」(愛知県陶磁美術館、2022)、個展「彼方からの手紙」(アートコートギャラリー/大阪、2022)、「Slow Culture」(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA/京都、2021)、「Tokyo Midtown Award 2020」(Tokyo Midtown/東京、2020)、「セレブレーション-日本ポーランド現代美術展-」(京都、ポズナン、シチェチン、2019)など。2016年には京都市立芸術大学学長室の壁画制作を手がけた。平成30年度京都市芸術新人賞受賞。
現在、京都府京丹後市在住。

https://www.instagram.com/satoshi.kawata78/
https://www.artcourtgallery.com/artists/kawata/
赤松玉女(あかまつ・たまめ)
画家。1959年兵庫県尼崎市生まれ。1984年に京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻(油画)修了後、国内外の美術館やギャラリーでの展覧会を中心に活動。油彩、水彩、フレスコ技法など、画材や技法を組み合わせた絵画表現の可能性を研究。イタリアでの創作活動などを経て、1993年に京都市立芸術大学美術学部美術科油画専攻教員に着任。2018年度から京都市立芸術大学美術学部長。2019年4月から京都市立芸術大学学長。2020年度尼崎市民芸術賞、2021年度亀高文子記念―赤艸社賞。