REPORT @KCUA

mamoru「おそらくこれは展示ではない(としたら、何だ?)」

phase (0以前から)0–1(から2へ)に関するレポート

藤田瑞穂(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA チーフキュレーター/プログラムディレクター)

「おそらくこれは展示ではない(としたら、何だ?)プレイヤー:

mamoru:今回のプロジェクトの発案者。プロジェクトの発信源となるハイパーテキストの執筆者。そのテキストは転じて各プレイヤーに向けた投げかけでもあり、時にはスコア的なものにもなっているので、いわばコンポーザー的バンドリーダー的な役割のプレイヤー(相当な部分が各プレイヤーにゆだねられているため、プロジェクトを「私の作品」のようには考えていない)。2階のシアタールームの映像出品者。

池田精堂:会場を舞台に設営作業=展示技術を用いたパフォーマンスを行う。

仲村健太郎、小林加代子(Studio Kentaro Nakamura):特設ウェブサイトならびに関連資料のデザインを担当。

松本久木(有限会社松本工房):「第十門第四類」のフライヤーならびに@KCUA会場のビジュアルデザインを担当。

藤田瑞穂(@KCUA):「第十門第四類」構成、各フェーズでの変化に伴ってアップされるテキストと記録、プロジェクトの企画・運営を担当。

mamoru〈思索の地図〉(2020年12月)

2020年12月。mamoruによって〈思索の地図〉が生み出されたとき、すでにこのプロジェクトは始まっていた(0以前)。

 

 

〔歴史〕を〔記述〕しようと〔アーカイヴ〕を〔聴く〕

そのために準備し、用意するものと、それからの〔残響〕……。

 

 

まずは場を作る。持ち込む京都市立芸術大学の収蔵品として、鑑賞対象としての「作品」ではなく、〔歴史〕を語るための資料、すなわち、かつて行われていた活動の〔アーカイヴ〕である、学校創立当初の絵手本に目をつけた。かつては教材として用いられたが、教育方針の変化から省みられなくなって戦後には台帳からも詳細を割愛される。この時点で実用資料としての役目は終えたということになるのだが、博物館資料となった昭和57年以来、学芸員らによって少しずつその〔歴史〕が読み解かれてきた。この経緯を、長い間沈黙していたように思われたけれど、誰かが耳を傾けたことによって、そのか細い声は歴史を物語り始めつつある、と読み解くことにする。

望月玉泉《霊芝図》
"Beechcraft Model 18, 1941" by Joseph Gabriel, paper, sheet sticker, wood, 41.5×30.5×6 cm
(mamoru《THE WAY I HEAR/LAKWATSA, Manila 2013》より)

始動の第一声であり、かつ独立した展覧会でもある、という形式をどのように捉えるのか。

あれこれ考えながら準備を進めた結果「おそらくこれはまぎれもなく展示」というものができあがってしまった。

 

 

 

2階から15年前のmamoruが奏でる音が微かに聴こえてくる。mamoruの自宅の天井からやってきた紙飛行機は、上空から展示された絵手本を見つめている。

12月11日、京都市立芸術大学芸術資料館収蔵品活用展「第十門第四類」ならびに「おそらくこれは展示ではない(としたら、何だ?)」phase 0 開幕。同時に、特設ウェブサイト(担当プレイヤー:仲村健太郎、小林加代子(Studio Kentaro Nakamura))では、mamoruが自ら「グルーヴ体」と呼ぶテキストのリズム感が文字に表れ、ハイパーテキストによって注釈、脱線、連想が交差しはじめた。

特設ウェブサイト(phase 0)

12月11日から12日にかけて、mamoruが京都に滞在。

12月18日夕刻から19日にかけて、mamoruが京都に滞在。「おそらくこれは展示ではない(としたら、何だ?)」プレイヤーの一人である松本久木(有限会社松本工房)、@KCUA藤田の3人で対話。

12月26日、京都市立芸術大学芸術資料館収蔵品活用展「第十門第四類」閉幕。

12月27日から28日にかけて、「おそらくこれは展示ではない(としたら、何だ?)」phase 1に向けての設営。mamoruは不在。絵手本用の粉本箪笥を移動させ、エントランスにはmamoruとの交信所、あるいは考えるためのテーブルとして、椅子と机を置く。絵手本のうちの一枚、池田雲樵《蘭図》から発想したmamoruのテキストを配置。会場ビジュアルを「おそらくこれは展示ではない(としたら、何だ?)」phase 1仕様に変更。キーカラーは、絵手本上に見られる落款の色から、オレンジとする。

森川曽文《虎図》

1月1日、@KCUAのウェブサイトトップページスライドにて「第十門第四類」には出品しなかった絵手本から、森川曽文《虎図》で新年のご挨拶。(–1月10日まで)

1月4日、「おそらくこれは展示ではない(としたら、何だ?)」phase 1 開幕。mamoruよりプロジェクト・アップデートスコアの改定がプレイヤー向けにアナウンスされる。開館前に2階に「THE WAY I HEAR, Fuchu 2012–2013」のパフォーマンス記録映像を追加。1月11日の設営作業に関する発表を行う。

1月11日。mamoruから送られてきた「THE WAY I HEAR」の関連資料を読み、どのように考えるかをその日集まったメンバー(池田精堂、松本久木、@KCUA藤田)で検討。これらの資料に着想を得て、空間にプレイヤーの思考を〔アーカイヴ〕することを試みる。様々な視点からの記録(Aの視点から、Bの視点から、あるいはAとBの両方によって残された、あるものに関する記述。一つの物事を異なった視点から記録したもの)ならびにモノの軌跡についてのメモ。

それらを壁に貼ると、わかりやすく「展示する」行為になってしまうので、(まだ立ち上がってはいない、何らかの芽のようなものとして)床置きにする。

mamoruが〈思索の地図〉で問う「activaitonを展示することでperformされうる何かとは?」ということの実践のかたちを引き続き模索することとして、プレイヤーによる作業が終了。

1月16日、mamoruよりメインの3面スクリーンに投影する映像のデータが届く。閉館後、映像の差し替え作業。

この映像でmamoruは「corn」と題された音楽にのせて、学ぶことにまつわる思索から始めて、〔アーカイヴ〕や〔記述〕が、実際に体験として学ぶことと同じように経験を生み出すこと、伝えることができるかと謳う。

映像と音声によって、会場にレイヤーが重ねられていく。

 

 

そして飛行機は、いつしかその高度を下げてきたようだ……。

 

 

 

 

 

(phase (0以前から)2(から3)に続く)

撮影:来田猛(展示風景)

2022年2月06日(日)更新