SPECIAL EXHIBITIONS

京都市立芸術大学移転記念事業

Floating and Flowing──新しい生態系を育む「対話」のために

京都市立芸術大学の新キャンパス移転から半年が過ぎ、はじめての春を迎えようとしています。移転計画が決定してから新キャンパスがオープンするまでの約10年、大学移転という大きなできごとがこの地域に何をもたらすのか、人々の注目が集まりました。

2015年には、「芸術であること」「大学であること」「地域にあること」の3つを大学の果たすべき役割とし、新キャンパス全体を、外に向かって開かれ、ある基準面から浮き隔たることで日常の視点を変え、新たな解放を生み出す「テラス(Terrace)」と位置づけるという移転基本コンセプトが策定されました。そして2017年に乾・RING・フジワラボ・o+h・吉村設計共同体による「まちのように育まれる、水平につながっていくキャンパス──大学と地域、芸術と社会の新しい関係性を生み出すフレーム」をテーマとした建築設計プランが採用となり、2023年秋に新キャンパスが竣工しました。

またこの間に、移転予定地周辺で、多様な活動が生み出されていきました。@KCUAでは、「still moving」などの大学移転をめぐる複数のプロジェクトや、この地域のこれまでの歩みと豊かな自然環境を背景として、これから育まれていく新たな生態系を考察するためのさまざまな取り組みを行ってきました。

新キャンパスの@KCUAの展示室での2回目の展覧会となる本展では、変わりゆくまちを見つめ、それぞれの方法でアプローチしてきたアーティストたちの活動、@KCUAの取り組み、それらと京都市立芸術大学の教育と表現の歩みとを重ね合わせて、大学と地域、芸術と社会がつながって育まれる、生態系の未来を考えるための場を作り出します。

新キャンパスの敷地内には、かつて運河として開削された人工河川である高瀬川が流れています*。また、沿岸に大学と周辺地域との交流広場「崇仁テラス」が整備されるなど、高瀬川は大学と地域とをつなぐシンボルの一つとなりつつあります。そこで本展では、高瀬川に着想を得たイメージをもとに会場を構成し、内と外の境界をまたいでひろがる「テラス」という理念の体現を試みます。それは、新キャンパス、そしてそこに込められた建築家たちの想いへの、@KCUAからの一つの応答でもあります。

ものごとをじっと観察して何かを作るという表現行為は、長い歴史のなかで面々と受け継がれてきた、世界に近づき、対話するための術でもあります。これまでになされてきたさまざまな「対話」どうしがつながり、ともに考え、育み、ひろげることは、未来への可能性を豊かにひらくことを願う新たな「対話」のはじまりとなるでしょう。

* 高瀬川は新キャンパスのE・F棟の付近、H棟とJ棟の間を通っています。また、2002年に現在の流路に変更される前は、旧流路の一部は新キャンパスのC棟(@KCUAのある建物)周辺を通っていました。


新しい生態系を育む「対話」のための活動:

・京都市立芸術大学及び京都市立美術工芸高校移転整備工事乾・RING・フジワラボ・o+h・吉村設計共同企業体との対話
・崇仁すくすくセンター・挿し木の地植え
・高瀬川をめぐる活動シリーズ(京芸高瀬川保勝会、佐々木萌水ワークショップ、高瀬川モニタリング部、前田耕平パフォーマンスほか)
・場を作る活動(イヌ場、たき火場ほか)

などを予定しています(会期終了後に実施・継続するものを含む)。
詳細はウェブサイトにて随時公開いたします。

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作家
佐々木萌水崇仁すくすくセンター(挿し木プロジェクト|代表:山本麻紀子)高瀬川モニタリング部前田耕平森夕香
会場
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
会期
2024年4月20日(土)2024年6月9日(日)
開館時間
10:0018:00
休館日
月曜日
4月29日(月・祝)、5月6日(月・振休)は開館、4月30日(火)、5月7日(火)を休館
入場料
無料
主催
京都市立芸術大学
会場構成
池田精堂
企画協力
京都市立芸術大学及び京都市立美術工芸高校移転整備工事乾・RING・フジワラボ・o+h・吉村設計共同企業体
京都市立芸術大学美術学部日本画専攻ゼミ1(川嶋渉、翟建群、正垣雅子)
京芸高瀬川保勝会
小山田徹(京都市立芸術大学美術学部教授)
企画
藤田瑞穂(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA チーフキュレーター/プログラムディレクター)
お問い
合わせ

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
Tel: 075-585-2010
メールでのお問い合わせは、
お問い合わせフォームからお送りください。

Artist Profiles

作家プロフィール

佐々木萌水(ささき・もえみ)
1991年北海道生まれ、京都府在住。漆作家。京都市立芸術大学大学院美術研究科工芸専攻漆工修了。過去から未来へ向かう人の営みや時間の連続性に焦点を当て、近年は京都市内を流れる川から採集した陶磁器片を漆で繋ぎ合わせた金継ぎや呼継ぎなどの作品を制作する。主な個展に「街の貝殻」(ROD GALLERY、東京、2024)、グループ展に「京都府新鋭選抜展」(京都文化博物館、京都、2024)など。
崇仁すくすくセンター(挿し木プロジェクト)(すうじんすくすくセンター)
京都市立芸術大学移転等の新たなまちづくりによって大きく変化する崇仁地域にて、まちと共にあった小学校、市営住宅、保育所などで命を育んできた樹木の挿し木を媒介とし、地域の皆さんや様々な人たちと見守ることで、土地の記憶や人の繋がりを継承しながら、いずれしかるべき場所に木を地植えして返すことを目指すプロジェクト。

代表:山本麻紀子(やまもと・まきこ)
1979年京都市生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻構想設計修了。ある特定の場所について観察や考察を続け、常識や習慣など日常の中で見過ごされている事柄や疑問を糸口にして、その場に関わる人たちとのコミュニケーションの在り方を考えるプロジェクトを行う。その一連の過程を、絵、写真、映像、ドローイング、染め、刺繍など様々な形式で作品制作を行っている。
高瀬川モニタリング部(たかせがわもにたりんぐぶ)
1614年に京都の豪商、角倉了以(すみのくらりょうい)らによって開削された高瀬川。 高瀬船が通った運河は、水路として今も京都の街を流れている。そんな高瀬川を覗いてみると、実はさまざまな「生き物」に出会える。この「生き物」たちの世界を部長の前田耕平と一緒に観察していく。 高瀬川の昔と今、そしてこれからについて、考えてみる部活動。2022年春よりスタート。
前田耕平(まえだ・こうへい)
1991年和歌山県生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻構想設計修了。ルーツとなる紀伊半島の風土や体験、哲学を根幹に「自然と人の関係や距離」をテーマに活動。国内外の自然地形や生態系、文化や信仰に目を向けフィールドワークを中心に、写真、映像、パフォーマンス、インスタレーションなどの作品を制作・発表している。
森夕香(もり・ゆか)
1991年大阪府生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻日本画修了。パリ国立高等美術学校派遣交換留学。滋賀県の比叡山の麓で仏教を身近に感じながら学生時代を過ごす。自らの体験や感覚をもとに、身体と環境が互いを内包し合い流動的に変化し続けるさまを絵画における図と地の関係を曖昧にすることによって表現している。主に日本画材を用いた絵画を、ドローイングや写生を元に制作している。
京都市立芸術大学美術学部日本画研究室絵画制作資料
現在、日本画研究室では、日本画制作および日本画実技教育に関連する資料のアーカイブ化に取り組んでいます。川嶋渉(本学日本画専攻教授)が収集し、日本画専攻に寄贈した本学出身画家や学生の写生や絵画制作資料、日本画家が使用していた顔料や画材を資料化することによって、日本画表現を多角的に理解するための研究素材になると考えています。資料化したものは、実技授業において、学生たちが間近で観察、手に取ることができる教材として活用しはじめています。開学以来、絵画(日本画)表現を研鑽する学生たちの存在は、絵画表現の動態が継続していることを意味しています。日本画は伝統的な要素が多々ありますが、墨守している表現領域ではなく、画家たちの革新と創造の挑戦が重ねられてきました。絵画制作資料と画材の総括的な収集と保存と活用が、新たな創造の種となる可能性を期待しています。

Artworks/Photos

参考作品画像など

  • 崇仁すくすくセンター 2020年度の活動の様子(撮影:片山達貴/提供:HAPS)
  • 佐々木萌水《月あかりと船》2021(撮影:来田猛)
  • 佐々木萌水《三ツつむじ》2022
  • 森夕香『Suujin Visual Reader 崇仁絵読本』挿画 2021
  • 森夕香 展示風景(撮影:来田猛)
  • 高瀬川モニタリング部
  • 前田耕平による高瀬川に生息する生き物の点描
  • 前田耕平《かめのめ》2022|映像からのスチル(撮影:中谷利明)|提供:HAPS