INTERVIEW @KCUA

「京芸 transmit program 2020」作家インタビュー(3)

西久松友花

聞き手:岸本光大(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA 学芸員)

「京芸 transmit program」は京都市立芸術大学卒業・大学院修了3年以内の若手作家の中から、いま、@KCUAが一番注目するアーティストを紹介するプロジェクトです。アーティストの活動場所として日本でも1、2を争う都市京都における、期待の新星を紹介するシリーズとして、毎年春に開催しています。


「京芸 transmit program 2020」カタログ(近日発売予定)より作家インタビュー部分を公開いたします。第3回はまざまな文化的背景を持つ装飾的な新旧混交のモチーフを陶により象り、それらの再構築と再解釈を試みる西久松友花(にしひさまつ・ゆうか/陶磁器)さんのインタビューです。

作家ステートメント

兜、かんざし、身を着飾るものや銅鐸等の祭具、“装飾的”と感じるさまざまなものに魅かれ、私はこれまで「飾り」をテーマに作品制作を行ってきた。細かな意匠を施した巧みな装飾の数々に圧倒され、 “目に映る一部一部を抽出して収集したいという欲求”が作品作りの源にある。
そうして頭の中で収集したものをコラージュするように土に置き換え、再構築していく中で形は生まれる。作品には、色が重要な要素となっている。
以前、絵画を描いていた経験があり、絵を描いている感覚で記憶に残る色彩を土に落とし込んでいる。 「飾り」の制作を続ける中、装飾という視点から、宗教的象徴物や文化的背景を持つものへ興味が移ってきている。
見えないものへの恐れや人知の及ばぬ出来事への恐怖を日々感じる今、人は時に形ないものに縋り、祈る。形ないものに形を与え、自らが縋れるものを可視化したい。祈る対象、いわば偶像のような存在を作りたい。
自身にとって制作をすることが、その制作過程を含めて祈るという行為に近いものがある。焼成することで、自らの手で生み出した作品は未知数に変化し、窯から出すまで予想がつかない。土という素材と対峙し、コントロールし、時には現象に任せてみる。そうした工程全てが詰まって私の「偶像」は生まれる。 出品作の《祈祷縄》は自らの縋れる拠り所としての役割を果たす。

《廻》(2020)

—西久松さんにとって、作品制作とそれを観客の前へ展示す ることは、それぞれどのような意味を持ちますか。

西久松:私の制作活動は自分の精神的な部分と大きく関わっています。震災や昨今のコロナ禍の影響もあると思いますが、死への恐怖が私の中で以前よりも大きくなっています。安心感を得るための行為の一つとして制作があります。土を触る時や轆轤を回す時には気持ちが落ち着くし、土の表面を装飾や色で埋め尽くすことで安心感を得ることもあります。その結果生まれた作品の存在は、私の理解者でもあります。だからといって作品を自己本位なものだけにはしたくない。鑑賞する人へ全ての解釈を委ねるわけではないですが、作品を介して少しでも思いや考え方を共有できればと思っています。昨年の個展では、「輪」をテーマにした作品を展示しました。すると、作品の一部の輪の部分に手を差し込んだり、そのまま作品の周りを回ったりする方がいて……少し驚きましたが、何かを感じてくれているのかなって。人って輪とか円い形とかに、無意識のうちに精神的な安定や美しさ、神秘的なものを感じるのかもしれないですね。

  • 《祈祷縄》(2020)

—「今」に対して、自身の作品や活動をどのように捉えますか。

西久松:新しいことに挑戦したり、新しいものを生み出したいという気持ちを持つアーティストは少なくはないと思います。私もその一人です。時代が進むにつれて原料も変わってきたり、新しい釉薬も沢山出てきています。現代を生きる私ならではの感覚を形や色に生かし、その時にしか作れないものを作りたい。
芸術に携わっていない人でも、どこか面白い、なんとなくわかるって思ってもらえると理想です。「これは焼きものなんですか」とか「土で出来ているんですか」とか、違う素材に見えたと言われることもあって、そこから興味を持ってもらえたりもします。土の可能性を知ってほしいし、自分の視野も広げていきたいです。そして今、見えないものへの恐れを日々感じています。その恐れから逃れ、何かに縋りたいという思いから作品は生まれます。制作は祈るという行為に近いものがあります。

《虚飾》(2020)
  • 《容れ物》(2020)
《結(松竹梅、松、鶴、宝船、俵、紙垂)》(2018)
撮影:来田 猛

—これからの展開や挑戦に向けて聞かせてください。

西久松:今は宗教的象徴物や独自の文化的背景を持つものなどに関心があるので、そこをもう少し掘り下げていきたいです。また、寺社仏閣を訪れた時に感じる畏敬の念を作品や展示空間の中に込めたいとも思っています。
作品にはそれぞれ適した大きさがあると思いますが、今作りたいのは大きい作品です。今回の「京芸 transmit program 2020」の出品作では自分の身長を超える大きい作品を作りました。焼成することによって、釉薬や形の変化が起き、窯から出すまで想像がつきません。作品が大きくなればなるほど、コントロールすることが難しくなります。その為、土の特性を十分理解し、向き合っていく必要があります。
思い描く理想がクリアに再現できて、それを鑑賞する人と共有できた時にどうなるかと楽しみにしています。いつ本当に納得のいく世界観を表現できるのかわからないですけどね、もう死ぬまで探しているかもしれないです。

2020年7月26日(日)更新